非正規労働者が多数派になる可能性もある

ある非正規労働者の日記 ある非正規労働者の日記

労働者について、おなじように身を削って働いている人を、正規と非正規に区別することに必然性はないと私は思っている。それは人為的に作られたものだ。せいぜい、採用時の経緯が違うだけだ。正規はハードルが高く、非正規は低いというのが一般の見方ではある。正社員や正規公務員の人は、過酷な競争に勝ち抜いてきたので、それなりの特権は当然だと考えているだろう。非正規の人も、それは仕方のないことだとあきらめている人も多いだろう。

今や正規・非正規の待遇の差は、自明なこととして私たちの意識の中にあるように見える。しかし、私が思うには、そう思い込まされているだけだ。

仕事の現場では同じように働いている。採用の経緯の違いがあるにせよ、非正規であっても、仕事は正規と同じようにしている。少なくとも現場での仕事は同じようにしている。1ヶ月の労働時間の違いや転勤の有無などの差があったり、責任が違うとかいろいろ違いは指摘できるだろう。しかし、同じ現場で広義の「同僚」として同じ仕事をしている点では差はない。現場で同じように働いていることに、どんな差異があるというのだろう。

ところが、正規労働者の諸手当やボーナスを含めた年収と、非正規の年収では大きな差があるのが通例だ。時給に換算しても、少なくとも倍以上の差がついているのが当たり前ではないだろうか。

企業経営者の論理からすれば、幹部候補の正規と、下っ端の非正規を区別することは経済的合理性があるという見方があるだろう。幹部候補でない労働者は一円でも安いコストで雇いたい。低いコストの労働者が「経済的」であることは、「経済」(エコノミー)の語の意味からして自明ではある。それこそが経済の基本だといいたい人もあるだろう。

しかし、一定割合の人々がまじめに働いていても生活が苦しい、ワーキング・プアといわれる状態になるようなことが「常識」になってしまっては、その経済社会の安定的な持続は難しいだろう。

貧しい人が増えれば、消費は伸びない。消費が伸びないことには、企業の売り上げも伸びない。そうしてGDPも増えず、経済成長も微々たるものになった。日本では延々とデフレが続いてきた。高度経済成長期は、物価も上がって必ずしも暮らしが楽になるわけではなかったが、少なくとも給料も上がっていた。

かつては内需よりも外需で成り立っていた面が強い日本経済だった。それでも、給料が増えれば、内需も増える傾向にあったことは、古き良き時代の話として語られもする。

 

一割の恵まれた労働者と、九割の貧しい労働者に別れた社会を想像してみてほしい。その社会では、多くの貧しい人々は食品などの生活必需品はなんとかして買うが、それ以外の商品を買うことができない。その社会で売れるものはかぎられてしまう。多くの消費者はお金がないので、一円でも安いモノを買おうとする。

貧しい消費者は、付加価値の高い高額商品をほしくても買うことができない。その社会では、多数を占める貧しい消費者が、買いたくても買うことのできない高額商品の生産が、減ることになる。金持ちの労働者たる消費者は、自分がほしいと思う高級品は、輸入品の高額商品を買うことになる。そうすると、企業の国内での総売上は伸び悩むことになる。

その結果、企業は、高付加価値の商品は海外市場に輸出しようとすると同時に、新興国や途上国との競争のために、賃金の低い国での生産に力を入れる。そして、国内でも価格競争力のある商品を売るために、できるだけ安く人を使おうとする。こうして、低賃金でしかもクビの切りやすい非正規労働者が増えることになる。さらに貧乏人が増え、デフレが進む。

今の日本は、もはや他の先進国から、経済的には大きく遅れをとってしまった。バブルの頃と比べるのは、もはや意味のないことだろうが、時価総額で日本企業は、世界の十位以内のほとんどを占めていた時代が嘘のようだ。今や10位以内の日本企業はない。

 

今の日本社会では、正規と非正規が六割と四割くらいの比率なので、弱い立場の非正規労働者はマイノリティだ。しかし、これから貧しい労働者が増えていくようなことになると、恵まれた立場にいる人も、安泰ではなくなる。労働人口のなかの非正規の割合の方が増えてマジョリティになれば、正規の賃金を減らしてでも、非正規に分配せよという要求が通ることになるかもしれない。

今後、日本経済がさらに衰退することになれば、確実に貧しい労働者が増えることになるだろう。そうなったときに、今、自分は勝ち組だと高をくくっている人も、負け組に没落してしまう可能性が生じることになる。没落せずに現状でとどまった人でも、もしかすると政権交代が起きて、今までの既得権を失う可能性もある。

一国の経済は、個人の努力だけではどうにもできないことがある。今、安全地帯にいるつもりでも、その地盤が盤石とは言えないかもしれないのだ。

非正規労働者が負け組で、能力のない輩だと見下している人も、未来の日本ではいつその負け組に没落するかわからないことは、認識しておくべきことだと思う。勝ち組と負け組の違いは相対的な差に過ぎない。勝ち組と自負している人でも、何をきっかけにして負け組に転落するかもしれないのだ。

そう考えると、賃金格差の大きい今の日本経済のあり方は変えるべきだと思うのだが、まあ、同意してくれる人はまだまだ少数派なのだろう。

以上は、一下層労働者のたわごとに過ぎない。

 

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